昔から「勘定あって銭足らず」といわれるように、利益が出ているはず
 なのに手元の現金は不足という事態はよくあるものです。資金不足で倒産
 するケースもしばしばです。こうした疑問に答えてくれるのが「キャッシ
 ュフロー計算書」です。
  キャッシュフロー計算書の導入は2000年3月期より、有価証券報告
 書提出企業にのみ義務づけられていますが、それ以外の企業でも「キャッ
 シュフロー計算書」は重要なものです。

  キャッシュとは、現金および現金同等物のことです。現金とは手元現金
 と要求払預金(普通預金、当座預金、通知預金)のことを言います。現金
 同等物とは取得日から満期日または償還日までの期間が3ヵ月以内である
 定期預金、譲渡性預金、公社債投資信託等のことを言います。

  キャッシュフロー計算書は、会社のキャッシュの増減を一会計期間で示
 したものであり、キャッシュとは現金および現金同等物のことです。キャ
 ッシュフロー計算書で会社にどのように流れ、どのくらいのお金があるか
 分かります。
  商品やサービスの提供とその売上代金の回収は時間差があります。つま
 り、どんなにたくさんの売上を上げても、その回収に長い時間がかかって
 手元のキャッシュが増加しなければ、借入金を返済したり、商品の仕入代
 金を支払うために、また資金を借り入れなくてならず、会社の資金繰りは
 苦しくなります。
  キャッシュフロー計算書からは、この様な危険を読み取ることができま
 す。

  キャッシュフロー計算書の基本的な構造は「営業キャッシュフロー」、
 「投資キャッシュフロー」、「財務キャッシュフロー」の3つに分けてい
 ます。
  これによって会社が営業活動でどのくらいの資金を獲得し、その資金を
 どのように使ったかを読み取ることができます。

  営業キャッシュフローは商品の販売やサービスの提供など会社が日常の
 営業活動から得たキャッシュ量を表しています。つまりその会社は一年間
 に本業でどのくらいのキャッシュを生み出せるのかが分かる大切なキャッ
 シュフローです。

  投資キャッシュフローでは事業を維持するために必要な資金を表します。
 主に固定資産の取得や売却がここに入ります。
  営業キャッシュフローと投資キャッシュフローを足して「フリーキャッ
 シュフロー」が求められます。

  財務キャッシュフローには会社の資金が不足したときに、どのように資
 金調達を行い、どのように返済したかが示されています。

  フリーキャッシュフローとは会社が自由に使えるキャッシュのことで、
 キャッシュフロー計算書で最も大切なキャッシュフローです。
  自由に使える資金があって、はじめて借入金の返済や預金の増加が可能
 になるので、フリーキャッシュフローは多ければ多いほど経営状態は良好
 といえます。
  反対にフリーキャッシュフローがマイナスの場合、会社には自由に使え
 る資金が無く、会社を維持するためには資産の売却や金融機関からの借入
 など、資金を調達することが必要となります。



  営業キャッシュフローは会社が本業により一年間に得たキャッシュの量
 を表しています。つまりその会社はいくらのキャッシュを一年間で生み出
 せるのか、その能力が明確に現れる数値であり、3つのキャッシュフロー
 のなかで最も重要です。
  営業キャッシュフローがマイナスの会社は、借入金の返済や新規の投資
 はもちろん、営業能力を維持するためにも借入金に頼らざる得ないので、
 業績は悪化します。
  営業キャッシュフローがプラスであることは、良い会社の第一条件です。
 営業キャッシュフローが大きいほどフリーキャッシュフローも大きくなり、
 会社の経営は安定します。

  営業キャッシュフローには、細かい項目がいくつも並んでいますが、こ
 れらの項目を一つずつみる必要はありません。営業キャッシュフローは
 「業績」と「取引条件」に分けられます。業績を上げて取引条件を改善す
 ると営業キャッシュフローが増加します。
  営業キャッシュフローを構成する項目のなかで業績を表すものは、経常
 利益、法人税等の支払い、役員賞与の支払い、減価償却費です。このなか
 で業績を上げるために重要なのは経常利益の増加です。
  そして取引条件を表す主な項目は、売上債権の減少、買入債務の増加、
 棚卸資産の減少です。
  売上債権とはまだ回収されていない商品の販売代金であり、この額が増
 えるとキャッシュは入らず、キャッシュフローは減少します。
  反対に買入債務はまだ支払っていない商品の購入代金であり、これが増
 えるとキャッシュは出ていかず、キャッシュフローは増加します。
  つまり代金は得意先から早く回収し、支払は信用を落とさない程度にゆ
 っくり支払えば営業キャッシュフローは増加するのです。また、棚卸資産、
 つまり在庫の減少も営業キャッシュフローの増加につながります。



  投資キャッシュフローは、投資活動によって生じたキャッシュの増減を
 表します。現事業を維持するために必要な資金で、一般的には有形固定資
 産、無形固定資産の取得および売却がここに入ります。
  投資キャッシュフローは主に固定資産の取得および売却で増減したキャ
 ッシュの量を表しています。
  固定資産を取得すると、会社の資金が出ていき、投資キャッシュフロー
 はマイナスの値となりますが、所持していた固定資産を売却すると現金が
 入り、投資キャッシュフローはプラスの値となります。
  固定資産を取得すれば投資キャッシュフローはマイナス、固定資産を売
 却すれば投資キャッシュフローはプラスという関係に注意しましょう。普
 通、投資キャッシュフローの値はマイナスとなります。
  営業キャッシュフローと投資キャッシュフローを足すとフリーキャッシ
 ュフローとなるので投資キャッシュフローのマイナス値は小さいほど良い
 ともいえますが、必ずしもそうではありません。
  つまり固定資産をまったく買わずに投資キャッシュフローをゼロに抑え
 た方がいいかというと、決してそうではないからです。少なくとも現事業
 を維持するための設備投資は必要ですし、将来的に営業キャッシュフロー
 を増加させる投資なら可能な範囲で行う必要があります。投資キャッシュ
 フローのポイントは「コントロール」です。中古物件にするか、リースに
 するかで対応もできます。投資キャッシュフローのコントロールとはこの
 様な努力から始まります。
  また数年に一度、多額の投資を行う会社もあるはずです、たまたまその
 年の投資額が大きく、フリーキャッシュフローがマイナスとなっても、適
 切な投資であれば、次の年から営業キャッシュフローが増加し、結果的に
 はフリーキャッシュフローも増加して経営状態が改善していきます。
  会社の正しい経営状態を把握するためには5期分のキャッシュフロー計
 算書を見比べましょう。



  財務キャッシュフローは営業活動および投資活動を維持するためどの程
 度の資金が調達され返済されたかを表します。借入金の増減が重要なポイ
 ントで、借入金返済額が増えるとキャッシュフローは悪化します。
  資金が不足した場合にどのように資金の穴埋めをしたのか、反対に資金
 に余裕がありフリーキャッシュフローがプラスの場合、資金をどのように
 使ったかを把握することができます。例えば資金が不足した場合には、借
 入金や社債の発行によってどの程度の資金調達が行われたかが分かり、資
 金が余った場合には借入金をどの程度返済し、配当金としてどの程度の資
 金が支払われたのかが分かります。
  財務キャッシュフローで最も注目しなくてはならないのが、借入金の増
 減です。資金の借入を行うと、キャッシュフローは増加しますが、借入金
 はいずれ返済しなくてはならないキャッシュであり、利息も発生するので、
 借入金の増加は将来のキャッシュフローを悪化させます。反対に借入金が
 減少している場合、借入金を返済しつつあることを示すので、借入金が減
 っている会社は良い会社であり、もしも借入金をすべて返済し終わって借
 入金ゼロの会社があるとすれば超優良企業といえます。
  今後は財務キャッシュフローに注目し、会社の返済能力以上に借入金が
 増加していないかどうか厳しくチェックする必要があります。



  キャッシュの増減は、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、
 財務キャッシュフローを合計した値です。当期中のキャッシュの増減を示
 しています。
  キャッシュはどの程度増減したかも大切ですが、なぜ増減したかが大切
 で、キャッシュフロー計算書で分かるわけです。たとえキャッシュが増加
 したとしてもそれが借入金によるものなら経営は安定しているとは言えず、
 将来のキャッシュフローの悪化が予想されます。キャッシュがフリーキャ
 ッシュフローの段階で増加していれば、その会社の経営は好調で、さらに
 発展する可能性も高いのです。会社の経営状態はキャッシュの増減ととも
 にその増減の内容、つまり営業キャッシュフロー、フリーキャッシュフロ
 ーなどの大きさで判断しましょう。